「だいご」「なんだい、」ダイゴはいやそうな声一つもらさなかった。ただいつもと変わりない口調で、いつもと変わりない返事をしただけ。わたしにはそれだけでよかった。それだけで幸せだったから。「なんでもない」とわたしが言うと、今度こそダイゴはいやそうな声をもらした。少しだけ眉間にしわを寄せている。「なにもないのに呼んだのかい」「そうかもしれない、ごめんなさい」視線は合わさずに謝った。それなのに、なんだか視線を感じる。「…、こっちにおいで」ダイゴはわたしを手招きした。恐る恐る近づいたら、強い力で腕をひっぱられて、ダイゴの膝の上に向き合うようにのせられた。それから、思いきり、抱きしめられた。恥ずかしいどころじゃない!「はあたたかいね」「え、あ、うん、よく言われるよ」この状況にあんまり頭は付いていかなかったけど、会話の内容だけは理解した。今度は、わたしの肩にダイゴの顎が乗っかった。顔が見えない。視界に入るのはダイゴの色、だけ。「」「なに、だいご」「」「どうしたの、だいご」ダイゴがわたしの名前を呼ぶ。幸せだけど、それだけしかなかった。それ以降言葉を続ける気がないのか、ただ彼はわたしの名前を呼んだ。わたしの聞き返しには応じない様子。痺れを切らしたわたしがむっとしながら言う。「ねえ、なあに、だいご」そんなわたしの様子を見てか、ダイゴは楽しそうに笑ってから、言った。


「なんでもないよ」
それから彼はわたしを抱きしめる力を強めた。