「きーけーよーやーまーと!」
「・・・俺バンドの集まりが」
がなー!」
放課後、教室でうだうだとしていた俺の元に、気味が悪いほどの笑顔を浮かべた太一がやってきた。機嫌がよさそうだが、むしろそれが怖い。心のどこかで「俺は太一に殺されるんじゃないか」と思った。そんな恐ろしいほどの幸せオーラを放つ太一から逃げようとしたが、奴の空気読めないスキルが発動した。むしろ空気読んだ気がするぞ太一。恐ろしいなお前。


「こないだんち行ったんだけどよ、まあいい雰囲気になったわけ!」
にやにやと太一が笑う。太一、俺には分かるぞ。お前のそのいっやらしーい笑顔の理由が。なめんなよ幼馴染を!にやにやした太一は傍から見れば物凄く怪しい人物だ。眉間にしわを寄せているであろう俺と、ひたすらにやけている太一。どんな構図だ、こりゃ。


「んで、まあ押し倒してー」
「ブッ」
丁度ウーロン茶を飲もうとしていた俺には大打撃。素敵にウーロン茶が机に大冒険だよ。で、はい?太一、お前いまなんつった?押し倒す?すげーさらっと言ってんじゃねえ!あとにやにや顔やめろ!運よく鞄に入っていたタオルで冒険していたウーロン茶を回収。もう嫌だ俺帰りたい。


見てたらこう・・・ムラッときて、気づいたら首筋にキスマーク付けてたわけ」
「・・・」
別に純情なつもりはないが、太一のこれはどうかと思う。頭打ったのかこいつ?なんでこんなにホイホイいかがわしいこと言えるようになったんだこいつ?思春期の男だから仕方ないって、まあそりゃそうだけど、納得がいかない。


「そんときのの『ひゃあ!』って声がまじでかわいかったんだよー!ヤマトにも聞かせてやりたかった」
「いらねーよ」
バンドの練習なんてないけどもうバンドの練習行きたい。とりあえず早く帰りたい。その話を聞いて俺燃えるどころが萎えまくってるんだけど。太一まだにやにやしてるな、と思いつつもう一度ウーロン茶に手を伸ばした。ぬるい。


「ま、本番まではいかなかったんだけどな」
「へえそうですか」
よっしゃもうこれで終わりだろ。こいつの下よりのノロケ話なんて聞かなくていいだろ。早く俺を帰らせてくれさあ早く!!
「太一くん!」
「おっ!遅かったじゃねぇか!」
「えへへ、ごめんごめん」
うおーいここで彼女さん登場かよ。何気に俺初めて見たな、なんて思いつつ今度こそ鞄に手をかける。よし帰ろう。太一と彼女さんがイッチャイチャしている間に俺は帰ろうよしそうしよう。

「じゃあ俺先帰るわ」
「おー、じゃあなヤマト!」
「ば、ばいばい!」
彼女さんいい子だな、彼氏が太一だなんてかわいそうで仕方ない。ちら、とすれ違いざまに彼女さんを見てみたら、首筋に絆創膏が貼ってあった。流石にイラついた。