「ダイゴさん、なんだかなにが起こっているのかわからないんですが」説明してください、できたら原稿用紙5枚分に。彼女は声を少し高くした。「ごめん、5枚は無理だな」「ダイゴさんって作文苦手そうですもんね」聞こえる楽しそうな笑い声。顔は見えない。君は今何を見ているの?君は今何を考えているの?僕に伝わるのは、暖かい、ぬくもり。「それにしても、なんでいきなり抱きついてきたんですか」腰にまわした腕を、彼女がそっと触れる。「人肌が恋しくなってね」「いつもじゃないんですか、それ」そう言えば僕は、なにかというと理由をつけて彼女に抱きついていた気がする。素直じゃないんだな、僕も。


「熱くなってきましたダイゴさん」顔は見えない。ただわかるのは、彼女が手で自分を扇いでいることぐらい。夏が近くなってきた今日この頃は非常に暑い。でも僕は、彼女に抱きついている。彼女を抱きしめている。(あったかいなー)子供体温なのだろうか。「じゃあクーラーつけるよ」片手をちゃんの腰から離して、クーラーのリモコンに手を伸ばす。「ああ言えばこう言いますね、ダイゴさん」笑い声が、また聞こえた。


「カプリッチオって知ってます?」体制はそのまま、僕らは会話を続ける。温度を低くしたクーラーのおかげですこし、肌寒い。「カプリッチオ・・・?」復唱するように僕がつぶやけば、彼女はまた楽しそうに笑った。そんなに僕がおかしいのだろうか。そこまで変なことをしたつもりもないのに。「狂想曲ですよ」「きょうそう、きょく?」協奏曲、なのだろうか。首をかしげていると、彼女は「ああ、違うんですよ」と小さく言った。相変わらず楽しそうだ。


「狂想曲、カプリッチオ」思い出すように言う。一言一言ゆっくりと言えば、それに彼女もうなずいてくれた。「それで、カプリッチオってなんなんだい?」「形式にとらわれない自由な楽曲のことですよ」ああ、なるほど。それにしてもカプリッチオっていい響きだね。彼女の耳元で囁けば、彼女はくすぐったそうに体をよじらせた。「もう一つ意味があるんですよ」「もう一つ?」「はい、もう一つ」何か歌を口ずさんでいるらしい。小さな音が、僕の耳に入る。猫のように気まぐれな子だ。今日見たく僕が甘えると、甘やかしてくれるときもあればすぐに怒るときもある。・・・他にも例がありすぎる。とにかく、気まぐれな子だ。


「気まぐれ」
へ?僕は思わず間抜けな声を出した。「カプリッチオ、って言うのには気まぐれっていう意味もあるんですよ」また歌を口ずさむ。何の歌かはわからない。「・・・そう、君にぴったりだね」後ろから抱き締めていた体制だったけれど、これじゃあ、彼女の顔が見えない。一度離して僕の方に向き直させて・・・それから、口付けた。気まぐれ猫さん、あなたのための、カプリッチオはいかが?







2007.06.23(あなたの色にそまる、そまる、染まる