「愛してるよ」
「嘘ですね」
彼女の瞳は、すべてを見抜く。

「よくわかったね」「だってわかりやすいですし」表情を変えずに彼女は言う。なんて美しい瞳なんだろう。何もかもを見据えたような、まっすぐできれいな瞳。ほかの人にはないようなその瞳に、吸い込まれてしまいそうだ。

「エイプリルフールですもんね」「そうだね」お互いに目を合わさぬ会話。顔を合わせているわけでもない、ただ二人で空を見上げる。きれいな夜空だ、こんな夜には赤が映えるだろうに。(だけど僕に赤を作り出す力はない)(なんて非力なんだ)
「こんな夜には赤が映えるね」「嘘ですね、赤なんか映えませんよ、黄色にきまってます」僕と彼女は決まって意見が合わない。たとえば、僕がカレーライスを食べたいと言えば彼女はハッシュドビーフが食べたいというのだ。前からずっと、変わらない。
「今日はカレーライスが食べたいです」「僕はハッシュドビーフが食べたいよ」ほら、また意見が割れた。決して交わることのない僕らは、ただ夜空を見上げ続ける。別に彼女は帰りたいとも言わないし眠りたいとも言わない。ただ僕の隣に座って夜空を見るだけ。きらきらと星が光った。

「黄色がよく映える夜空だね」「いいえ、この色には赤が映えますよ」ほらやっぱり僕らはまじりあわない。きっとお互いに気づいているよね。君も僕も何も言わないけれど、お互いに、そう、お互いに、僕らは。
それからしばらく何も言わなかった。ただまた夜空を見上げていた。やっぱり、今日の夜空には赤がよく映える。君はどうかしてるよ、黄色なんて映えないさ、星の色とおんなじだろう?

僕らの関係。恋人でもなく家族でもなく友人でもなく。どのカテゴリーに入るのだろう?僕らはただのチャンピォンとトレーナーだ。入り込みすぎず、だけど、離れすぎず。僕らの、決まり。壊しちゃいけないことだ。
「ダイゴさん」「なんだいちゃん」相変わらず目も合わさないし(まあ合わす気もないけど)、二人して空を見上げているだけ。関係を崩すな、壊すな、余計なことは言ってはならない。
「わたしダイゴさんのこと嫌いですよ」ずきん、と胸が痛む気がした。どうしたんだ僕は何を考えてるんだ僕と彼女にはなにもないただのチャンピォンとトレーナーなのに僕は何をしているんだなにをなにをなにをなにを。
「僕も嫌いだよ」気がつけば、自然と言葉が出ていた。

「今日は、エイプリルフールですね」
嘘だなんて認めない、認めない、だから壊すな僕らの関係を!


壊れた壊れた壊れた壊れた壊れれれれれれれれれれれれれれれれれれれ
なんですべて壊すんだ君は!














2007.04.11