「うん、そうだね、ここはどこだろう」にこやかにぽつりと呟いたその言葉は馬鹿みたいに空気に溶けてなくなった。見知らぬ周りの景色に心が躍る。ワクワクとした感情と同時進行でバクバクと恐怖の心臓が高鳴る。(ここはどこここはどこここはどこここはどこなの)びゅう、と吹いた風のせいか髪が大きくなびく。・・・なびくなんてきれいなものじゃなかったかもしれない。(ここはどこだ)とりあえず歩き出してみよう。どこかに知っている場所があるかもしれない。(ここは、どこ)

歩けど歩けど見慣れたものは目に飛び込んでこない。それどころか挨拶すらしてくれない。(ここどこ)町のようなものも見えない。どうしたものか。(おなか減ったのどかわいた)体の欲求を抑えることができずなにか食べるものはないか、ときょろきょろを周りを見渡す。目に留まった木に生っていた桃のような実を勢いよく引きちぎって口に含む。(甘くておいしい、)水分も結構含まれていたようで体の欲求はすぐに収まった。念のためを思ってもうふたつ引きちぎって歩きだした。

(ほんと、ここ、どこ)結論から言わせていただこう。この場所、否、この世界は自分の知っているものじゃない。まわりは木々に囲まれている。こんな場所、自分が住んでいたところにはなかったはずだ。(温暖化がどうのこうの騒がれている世界でこんな緑があってたまるか)それに自分が住んでいたところはそれなりの都会だった。もちろん、森なんてない。(どうしよう)

(あ、)すこしひらけた場所に出た。きょろきょろを周りを見渡してみる。(もしかして)視界に入った人影。ここにきてから初めての人間だ!走ってその影に近付く。「あの、すいませ・・・」勢いよく顔をあげたら、そこにいた人の後ろにいる大きな怪物と目があった。(なに、これ・・・!)恐怖で震えて声が出ない。出そうとしても口が金魚みたくぱくぱく動くだけ。どうしよう、どうしよう・・・!

「君、大丈夫?」低めのテノールの声だった。そこにいた人は成人をもう超えたであろう若い男性だった。「は、い」ようやく声が出た。腰が抜けたらしい。自分の体が地面にぶつかろうとしているのがわかった。「やっぱり大丈夫そうじゃないね」どうやらぶつかる前に男の人に支えられたらしい。顔が赤くなるのがわかった。

「あの、えーっと、」言いたいことがでてこない。「・・・僕はダイゴ。君は?」「あ、です!」なんだか気を使わせてしまったようで申し訳ない気持ちになった。「ちゃん、その様子じゃポケモン持っていないみたいだけど、なんでこんな危険な場所にいるんだい?」・・・え?ぽけもん?なにそれ?思わず呟いた。「ポケモンをしらないの・・・?!」お父さん、お母さん、わたし、わけわからん世界に来てしまったようです。



Let's trip!
(行動性のないアリス)







2007.09.30