空中楼閣にて



眠る





君は、いつでも笑っていた。僕が名前を呼ぶ度に、なんですか、と笑いながら答えてくれた。そんな君が大好きだった。いつでも無邪気な声、ふんわりとした笑顔。怒った顔でさえも、僕は大好きだった。いたずらっぽく笑ったり、ムスッとしたり、くるくると変わる表情に飽きることはなかった。というより、飽きるなんてことはとんでもないことだったから。


「ダイゴさん」
「どうしたの?」
「ずっと、ずっと、大好きですよ」



あの笑顔を思い出すと、いつだって胸のあたりがとくんと強く音をたてる。苦しいような、愛しいようななんとも言えない気持ちになる。彼女と出会う前は味わったことのなかった気持ちだった。僕はその気持ちの名前を知らなかったけど、きっと、知るつもりもなかったんだと思う。知らなくてもいいような気がしたから。


「ダイゴさん」
「どうしたの、ちゃん」
「わたしがいなくても、ダイゴさんは幸せになれますよね?」
「なれないよ、僕は君から始まって君で終わるんだから」
「ふふ、おかしなダイゴさん」



君がいない世界なんて考えられないと何度語れば理解してくれるんだろう。僕はどうしようもないくらいに彼女が好きなのに。そう彼女に言うと彼女も笑ってこう返した。そんなのとっくに知っていますよ。あの人をからかうような、とても楽しそうな声が今でも耳から離れることはない。毎日のように君が僕の中で何度もささやいてくれているから。


「ダイゴさん」
「もうしゃべらないで、」
「わたしもきっとダイゴさんから始まってダイゴさんで終わるんですね」
「…!」
「ダイゴさん、…大好きです」



自分の気持ちとは裏腹に、日に日に記憶は曖昧になっていく。今日思い出したことも、半分以上が僕が脚色した薄っぺらの嘘なのかもしれない。あの台詞は、蜃気楼のようなものだったのかもしれない。彼女が発した台詞に自信はなかった。それでも、彼女の一つ一つの表情だけは、確実に覚えていた。僕に言えることは、それだけなのかもしれないけれど。(確実なことは一つだけ)


「さよならは、言いません」
ちゃん」
「また、会えますから」
、ちゃん!」





そういえば、今日で彼女がいなくなって一年だと、ふと思い出した。