鳴り響く電話の音が、ゆっくりと私の耳へ届く。トゥルルルル、トゥルルルル。今は2時。朝方の、2時。こんな時間に誰が一体何の用だというのだ。人が気持よく寝ていたというのに!起伏のないその電子音にどうしようもない嫌気を覚えながら、ポケナビを目を閉じたまま、布団の中から手探りで探す。確かこの近くにあったはず・・・、あ、あった。鳴りやみそうにないその音は耳に痛く感じられたが、この際気にしなくていいかと静かに応答のボタンを押した。あ、かけてきた人、誰か見てない。 『?』 寝ぼけていた私でもわかる。この嫌に落ち着いている声は、やつしかいない。 『ごめん、寝てたよね』 ホウエンリーグチャンピオンにしてデボンコーポレーション社長の息子。ツワブキダイゴである。 「そりゃあ、寝てたよ」 あまり動かない口を無理やり動かして答える。私の眠そうな声がつぼに入ったのか、機械を通した向こう側から押し殺したような笑い声が聞こえた。わ、笑われた。 『起こしてごめんね』 「いいよ、もう。でもどうしたの?」 『仕事がなかなか終わらなくてね。さっき終わったんだ。終わったときにね、君の声が聞きたくなって』 「・・・」 『顔真っ赤と見た』 「寝起き早々体に悪いこと言うよね」 どうやら笑い声を押し殺すことができなかったらしい。いつも聞いている優しくて楽しそうな笑い声が、少し控え目に、聞こえた。 「お仕事お疲れ様」 『の声を聞いたら大分疲れが飛んだから、明日も頑張れそうだよ』 「い、いちいち口説かなくてけっこうです!」 『はは、ごめんごめん。ねえ、明日の夜、あいてたりしないかな?』 「夜?普通に暇だよ」 『じゃあご飯食べに行こう!久し振りにデート、しない?』 「も、もちろんよろこんで!」 『今から楽しみだよ、僕も。詳しいことは朝決めようか』 「・・・ある意味今も朝だけど」 『僕のせいで寝れないなら僕もずっと起きてるよ』 「ね、寝ます!」 『なんだ、残念。』 「ダイゴももう寝てね、これ以上起きてたら体に悪いよ」 『・・・そうだね、もう寝るよ。寝る前に君の声が聞けたし、今日はいい夢が見れそうだ』 ダイゴはきっと計算せずにこんなことを言っているんだと思う。彼の素は恐ろしい。 「おやすみ、ダイゴ」 『良い夢を』 そう言ってから切れた電話はなんだか重たくて、さみしくて、さっきまで電話をしていたはずなのに、もう一度声が聞きたいと思っている自分がいる。やっぱりダイゴは恐ろしい。わたしの生活を、こんなにも侵食しているのだ。・・・しまった、眠れなくなってきた。 |