「ダイゴさんっていったい何人の方と関係持ってるんですか?」
「はは、すごくストレートな質問だね。」
いたって真剣な様子で僕にそう質問する彼女は、表情だけは真面目なくせに視線は手元にある文庫本に注がれている。要するに、彼女が真剣なのは僕に質問することでなくその本を読むことなのだ。まあ、僕もパソコンで書類を作りながら答えたんだけれど。カタカタ、ペラ。それぞれの効果音しか聞こえない部屋で、僕のポケナビがけたたましく音を鳴らした。うるさい。
ポケナビに表示された見覚えのある名前に吐き気がした。所詮体を重ねただけの女だ。名前は覚えてるけど顔は思い出せない。(最中にあいつ名前呼べってうるさいし)あー、思い出した、昨日あんあんうるさかったやつだ。喘げば僕の気をひけるとでも思ったのだろうか。喘ぎ声なんてどうでもいい。
数回体を重ねただけの相手の電話に出る気なんて更々ない。僕から連絡するまで連絡するなって言ったはずなんだけど。あー、こいつとの関係もう終わり。喘ぎ声うるさいし香水臭いし化粧ケバいしどうでもいいや。はい、電話切ってアドレス削除。


と思ったらまた電話かかってきた。あー、うるさいなあ本当。僕仕事中なんだけどなんなんだよこの女。ため息をついたらちゃんに舌打ちされた。される意味がわからなかったけどとりあえず電話放置。カタカタ、ペラ。相変わらずの効果音に電子音も追加された。

「ダイゴさん、電話うるさいんで早く切ってください、それか出てあげてください。どうせ今夜のお誘いでしょう?答えてあげればいいじゃないですか」
「嫌だよ喘ぎ声うるさいし化粧濃いし香水臭いし」
「ダイゴさんの本性知ってる人ってどれくらいいるんですかね」

興味なさげにそう呟くちゃんにゾクゾクした。僕になびかない女性なんて中々いない。どんなに気を張ってても僕が近づきさえすれば股なんて簡単に開く。あいつらが求めてるのは僕の身体なのか、それとも地位なのか。興味ないからどっちでもいいんだけど、愛されてるとか思われてたら最悪だ。あ、やっと電話切れた。しつこい女は嫌いだ。面倒だから。

「ポケナビの電源切ればいいじゃないですか。どうせ仕事用のは別にあるんでしょう」
「まあ、そうだけど」
「じゃあいいじゃないですか。切ってもらえないとこっちも読書に没頭できません」

彼女の目線は一度も僕に注がれない。瞳に映るのは活字だけだ。なんとなく面白くなかったのでソファーでくつろいでいるちゃんに近づいて、上から覆いかぶさってみた。仕事?ああ、別にすぐ終わるからどうでもいいや。

「重いしダイゴさん陰になるんでどいてください」
「今まで会ってきたやつらってこうしたら喜んだけど」
「そりゃ、わたしは喜びませんよ」

こんな行動に出ても彼女の視点が僕に合うことはない。相変わらず滑るように活字を追いかけているようだ。そんなスピードで内容が頭に入るのか、と思ったけれど、そのまま彼女の服に手をかけてみた。服のボタンを何個かはずしてみたのに反応はなかった。なんとなく甘い香りがした。

「本気で、邪魔」

突然体制を変えたちゃんに僕は対応しきれず、そのままちゃんの上からも、ソファーの上からも落ちた。みっともなく床に投げ出された僕をちゃんの冷たい視線がようやく注がれる。ああ、ゾクゾクするよ。どうやら僕は君のその視線がたまらなく好きみたいだ。

「どうしよう、君に惚れそうなんだけど」
「はいはい、おもしろくない冗談はいらないんでさっさと付き合ってる人全員と別れてきてくださいね」
「本気にしてないでしょ」
「する必要がありませんからね」

ふい、また視線が僕から外されて本へと移る。それと同時に再び鳴り響くポケナビ。なんかどうでもよくなったからポケナビを掴んで部屋にあった熱帯魚用の水槽に投げ込んでやった。ボチャン。はは、ざまあみろ。あれだけ騒々しかったポケナビはもう鳴らない。