後の祭り
後悔しても遅いんだってわけ










「それ、わたしのですよね」









 ダイゴさんがさも当たり前かのようにわたしのポケナビを弄っている。何してるんだ、こいつ。そうは思ったが声には出さないでおいた。あまり認めたくない事実ではあるが、腐っても年上である。敬う気持ちがあるかと聞かれれば答えはYESかNOでは判断できないことは黙っておこう。とりあえず、この人は何を勝手に人のポケナビを我が物顔で触っているんだ。





「―――嗚呼、そうだったね」
「いや、何言ってるんですか。とりあえず返して下さい」

 ソファーに座ったまま無表情でポケナビを弄るダイゴさんに体を乗り出して少しだけ近づく。もともとローテーブルを挟んだだけの距離だったので、そこまで距離があったわけではないが。ダイゴさんの手の中にあるポケギアを掴もうとすれば、ひょいと避けられ。念を込めて睨めば優しく微笑まれた。どうしよう、この人すごくむかつく。






「ちょっと、ダイゴさん」
「僕が少し見ていない間に随分と知り合いが増えたね」
「は?・・・いや、そりゃあトレーナーしてたら増えますよ嫌でも」


 断っても押しつけてくる人だっているじゃないですか、とダイゴさんから目を離しながら言うと、ダイゴさんは興味がなさそうにふうんと呟いた。何がしたいんだこの人は。いい歳こいて謎の発言をするなよと呆れてしまう。ゆっくりと視線を戻せば、背筋に寒気が走るほどの無機質で人間離れしたような表情―――いや、表情ではないが―――が目に映った。色んなものを通り越して何かを感じる。心臓を鷲掴みにされたような、心の奥底まで見抜かれているような、瞬きした次の瞬間にも絶命させられるような―――そうか、これが狂気か。






「いらないよね」
「え、あ、はあ?」
「こんなに、いらないよねえ」


にこり。ダイゴさんが笑う。わたしの全身から汗が噴き出る。だらだらだらだらと、留まることなく大量の汗がわたしの体を流れてゆく。そのくせ、体は嫌に冷たい。汗を拭おうと体を動かす前に、指一本すら動かすことができない。美しい笑みを浮かべるダイゴさんから目を離すこともできない。










































「削除、削除、削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除」









































「・・・駄目だ、数が多すぎるね」
「これじゃあ削除してもしきれない」
「そうだ、このポケナビは捨てよう。どうせいらないだろう?」
「新しいやつを僕が買ってあげる」
「それには僕だけ登録してね」
「僕以外を登録することは許さない」
「うん、そうしよう。とりあえずこれは僕が捨てておくよ」
「決まりだね、












わたしの好きな優しい声で言う。
わたしの好きな笑顔で笑う。
わたしの好きなあなたがいなくなる。














ガシャン。勢いよく床に叩きつけられたポケナビが壊れた音が耳に届く。ソファーに座ったまま動けないわたしを、ダイゴさんが優しく抱き締める。
いつものわたしなら。
顔を真っ赤にして無理矢理にでもダイゴさんから離れて「からかうのはやめてください!」って反抗するのに、今のわたしは。現状を信じることができずただ人形のように動かない。

























「君が好きすぎておかしくなりそうだ」






















2011/01/08 いつから、