きらびやかなクリスマスツリー。色とりどりの装飾が僕の目に映る。ああ眩しい。雪が降るわけでもないこの地方。降るとしても、ごくまれだと、思う。(うーん僕の記憶にはまったくないんだけどなあ)僕の口からさよならを告げていなくなる空気は、白く色を染めて、また消えた。『待ち合わせ場所は、デパートの前のツリーの下』なんて格好つけて、それでも冗談で言ってみたけれど、彼女は笑って『はい』と言った。待ち合わせ時間はもう過ぎている。実を言うと、遅刻しているのは僕の方だ。別に間に合う事だって出来た。でもなんでかな、時間通りに行きたくなかったんだ。

ちょっと歩いたら、目的のツリーが見えてきた。可愛らしいコートを羽織った君が居た。寒そうに手に息を吹きかけていた。手袋つければいいのに、ちいさく呟いた。「あ、ダイゴさん」ああなんだ、気付かれちゃった。いつも通りににこにこ笑いながら彼女に近づいたけど、彼女は疑いのまなざしで僕をみただけだった。「やあ、ごめんね、待たせたよね」変わらない声のトーン。いつもどおりの僕。「・・・大丈夫、です」弱弱しく笑って言った。おかしいなあ、いつも通りの君じゃないよ、どうしちゃったんだい?僕は彼女の手をとると、ゆっくりと歩き出した。それについてくるかのように、僕の手をきゅ、と握ってくれた。

「今日のダイゴさん、変です」
歩き出してから君が言った言葉はそれ。ああもう、どうしたんだい?「変なのは君じゃないか」笑って言えば、彼女の目つきは鋭くなった。「・・・もう、いいです」ぷい、とそっぽを向かれたから、僕は困ったように笑った。(ああいや、多分なんだけどね)なんでだろう、君に持ってたなにかがないんだ。なんだろう、もう忘れちゃったよ。「ダイゴさん」どこ、いくんですか?彼女は続けて言った。「うーん、どこだろう」僕が言えば、彼女は僕の手を離した。

「ねえダイゴさん、今日、おかしいですよ」
苛立ちを含んだような声。あれ、どうしたんだい?いつもの君は、そんな声を荒げないじゃないか。「・・・もしかして、」悲しそうな君の声。別に僕はそんな顔をしてほしいわけじゃないんだよ、ただなにかがたりないんだ。「あたしのこと」ああまって、その先を言わないで。僕はちゃんの腕をつかんで、思い切り引き寄せた。(君まであと、数センチ!)「え」なんて声が聞こえたけど、僕はちゃんにキスをしようとした、のに。「やめて、ください」君の制止の声。ねえ、どうしたの?いつもの君じゃないよ。「君こそおかしいよ、どうしていつもの君じゃないの」「・・・はあ?」気の抜けた声だった。それから彼女は頭をがしがしとかきむしった。今日がんばってセットしてきたんじゃなかったっけ?なんて心の片隅で思った。このことを君に言ったら確実に怒られるだろうなあ、すこし笑ってしまった。

「・・・あの、ダイゴさん。あたしのこと、好きですか?」変な質問ですけど。君は付け加えた。やっぱり変だ、当たり前じゃないか、僕は、君が。(あれ、なんだっけ、なにかが、ない)「・・・やっぱり」なにがやっぱりなんだい?ねえ、教えてくれないかな、僕が持ってくるのを忘れたのはなんなのか。「あたしダイゴさんのこときらいじゃあないんですよ」「なのにダイゴさんはあたしのこと、」続きは言わずに、俯いた。セットしたらしい髪はもうぐちゃぐちゃ。それでも君は、笑ってた。「ダイゴさん、忘れ物してます」・・・俯いてて、よくはみえなかったんだけど、君が笑ってたのはわかった。(それがどんな笑顔かも、見えなかったけど)

「それ、見つけてきてくださいよ、絶対どこかにあるから。だから、探してきてください、」
君のその言葉で、なんだろう、心がぽっかり空いた気がするよ。メリークリスマス!君はそういって走っていった。可愛いコートはいつのまにか人ごみにまぎれて見えなくなった。

れはこかにいて来た
(ああ、ええと、名前なんだったかな)(ねえ、それ、を僕は見つけられるとおもうかい?)




2006.12.25