『お仕事気を付けてくださいよ』ポケナビを通して聞こえるきみの声。機械を通しているからなのか、本当の声ではない。会いに行って生の声を聞きたいのだけれど、あいにく仕事中。出て行けばすぐに戻されてしまうだろう。大好きな君にも逢えないし、石も探せないし。なんて面倒なんだ。今頃君は、楽しく冒険してるんだろうなあ…そう考えると、気分が沈みそうになる。部屋の外には何匹かのポケモン。四天王のみんなってひどいよね、いくら前科があるったってもう学習してるよ!(そう、一度失敗しているのだ!)挑戦者もこないし、すっごく暇だ。

マグマ団やアクア団も活動してるって言うのに、僕はただポケナビを片手にだらけるだけ。四天王のみんなも会いに来てくれないし、本当暇で暇でしかたない!君からの電話が今の僕のささえだ!
『ダイゴさーん、生きてます?』「その言葉、ひどくない?」
そう言えば君は楽しそうに笑った。大人をからかうものじゃないぞ!って怒ってみたら余計に馬鹿にされた。なんだか悲しい。なんどこのやり取りを繰り返したかな。それでもまあ、飽きたりはしないけど。
「今はどのあたりにいるんだい?」『えーとですね、ミナモシティの近くですよ』
トレーナーたちに戦いを挑まれてすぎて疲れた、と彼女は言った。僕が言うのもなんだけど、彼女は強い。いつか追い越されてしまいそうになるほど、毎日進化を続ける。この前みたロコンはすでにすっごい強いキュウコンになってて驚いた!炎の石を探すのに苦労したとか。…僕に言ってくれればすぐ渡したのに。

「アクア団とかマグマ団はいない?」『いまのところはいませんね』からからと笑う彼女。僕は君を心配してるのにな!『ところでダイゴさんこそ大丈夫ですか?マグマ団とかに襲われてません?』それ、意味を変えればすごい言葉になるよ!僕も笑った。「大丈夫、でもいつ僕がいなくなるかわからないね」そう言えば君は黙ってしまった。あ、これはタブーだったかな。僕はあわてて「ごめんね」と言った。気にしていません、君は答えた。広い部屋に僕の声が響く。

実のところ、僕はいつ死んでしまうかわからない。だから毎日、君にさよならを言うことにするよ。そう君に言ったのはいつだっけ。僕はいつものお決まりのセリフを、また口にした。これで何度めだろう。ポケナビの向こうにいる君はどんな表情をしているのかな。 「それじゃあ、明日会えるかわからないから、『さよなら』」


『…ねえダイゴさん。それ、今日で365回目ですよ』
ポケナビを通して聞こえた君の声は、ひどく細々としていた。

365

(だから、あなたは死にません)




2006.01.29