「すきだ」
わたしに馬乗りになったデンジがわたしの首に手をかけながらそう言った。冷ややかな眼差しがわたしを突き刺す。彼が嘘をついているとは思わない。これが彼の愛情表現なのだ。…そう、自分が思いたいだけなのかもしれないが。少しずつ、ゆっくりゆっくりと、デンジが手に力を入れ始めた。必然的にわたしはどんどん呼吸が出来なくなる。「あいしてる」目で訴えてみてもデンジは全く止めようとしない。抵抗したってデンジの方が力があるし、第一に抵抗したところでさらに苦しくなるだけだ。つまりわたしはデンジが止めるのを待つしかないのである。


「げほ、」「いい眺めだ」
ようやくデンジの大きな手から解放され咳き込むわたしを、デンジは上から冷ややかに笑って見ていた。瞳は狂気に満ちている。長いこと咳き込むわたしを見ることに飽きたのか、デンジはわたしの上から降りて、キッチンの方へと歩き出した。「げほっ、げほ、」「げほげほうっせーな」ぎろり、デンジがわたしを睨む。背筋を冷たいものが走ったが、なるべく表情には出さないようにした。サディスティックを極めようとしているデンジには全てお見通しなのかもしれないが。


「いつかお前を浴槽かなんかに沈めてやるよ」
そんで死んだらまるで眠り姫だな。からからと楽しそうに笑うデンジは、どうみたってただの狂気にまみれた生き物だ。それでも美しく形成された全てがきらきらと輝いているように見える。狂気の光か何かか、とわたしは目を左手で擦る。目に見える光景は何一つとして変わってはいなかったが。片手にコーヒーカップを持ったデンジがくつくつと、今度は喉の奥を鳴らすように笑った。デンジが何を考えているかわたしは全くわからないけど、とにかく、わたしは自分の身を案じることしか出来ないのだ。


「なんか言えよ」
にたり、デンジが笑う。相変わらずそのきらめきは消えないし、狂気の色も消えていない。先ほどまでデンジが片手に持っていたはずのコーヒーカップは机の上に置かれていた。少しずつデンジが近付いてきて、もう一度お腹の上に跨がられる。移動しとけば良かった、と今さらながら後悔した。「なあ、プールと風呂、どっちがいい?」さらり、デンジの金髪が揺れる。真っ直ぐな瞳がわたしを見つめている。わたしは逃げられない、わたしは抵抗できない。


「水浸しになったら電気、効果抜群だろ?それで目、醒ませよ」
眠り姫を起こすのは、眠り姫を心から愛している王子だからな。狂気の光に輝いた瞳が、わたしをとらえる。首に向かって手を伸ばされているのが視界に入ったけど、わたしはもう抵抗出来なかった。そのままデンジの手に、力が込められる。
「あいしてるよ、おひめさま」






溺死した眠り姫





目を醒ませばいつも、わたしはデンジの腕の中にいるのだ。(結局彼はわたしを殺さない)