「こんな寒いなんて聞いてないぜ・・・嘘だろ・・・」
もう春だというのに外の世界は凍えるほどに寒くて、完全に気温をなめきっていたわたしの軽装ではその寒さをガードすることができなかった。調子に乗って春物のワンピースなんて着るんじゃなかった。これ春物とは言えちょっと生地が薄いんだよね。デパートで一目惚れしたワンピース、似合うかどうかの問題より気温の変化についていけないことの方が大変かもしれない。このワンピースに似合う暖かい上着なんて持ってなかったから、こっちも薄めのものになった。最悪のコンボだよ。いばるプラス身代わりくらいに嫌だよこれ。こんなことならお洒落するんじゃなかった、とため息をついた。ていうかデンジ遅いんだけど、凍死させる気かあいつ。



(まだかな)
デンジとデートだからこんなに張り切ってお洒落したのに、なんだもうこれ本当にお洒落するんじゃなかった。寒いしデンジ来ないし。まあまだ待ち合わせ時間から十分しか経ってないんだけど。わたしが風邪をひいたらデンジのせいだ。お洒落させるし待たせるし。いや、お洒落は勝手にわたしがしたことなんだけど。地面から視線を上げてきょろきょろと周りを見るけど、デンジらしき人の姿はどこにもなかった。ちくしょう、あいつどっかで転べ。



(珍しく足を沢山露出する服なんて着るんじゃなかった)
こんなに寒いなんて聞いてない。街を歩く人たちはみんなわたしよりあったかそうなそうな服を着ている。こんな薄着なのはわたしくらいなのかな、と思った。かわいいワンピースを着たわたしをデンジに見せたかった、なんて恥ずかしいことするんじゃなかったと後悔する。今更だけどデンジって洋服とか褒めるタイプじゃないよね。うわ、骨折り損じゃないか、これ。



「悪い、待たせた」
「ほんと、だよ・・・!」
寒さのあまり口がうまく動かない。遅刻してやってきたデンジは予想通り暖かそうな服を着ていて、癇に障る。くそ、わたしはこの寒さの中薄着で長いこと待ってたのに、こいつはぬくぬくしてやがる!むかついたからデンジの足を踏んでやった。「いって!」ざまあみろ。



「映画始まっちゃうよ」
「、ああ、そうだな」
返事を返したくせにデンジは歩き出そうとしない。あー、デンジの上着あったかそうだな。羨ましい。羨望の目でデンジの上着を見ていたら、デンジからうっとおしくなるくらいの視線を感じた。ちらりとデンジの顔を見て、視線の先を辿る。思ったとおり到着点はワンピースだった。すみませんね、見てて寒々しくて!



「お前、その服寒くないの?」
「!寒いですよそりゃ!」
そんなピンポイントに触れなくてもいいじゃないか!ていうかそこじゃないだろ普通!無神経すぎるデンジに腹が立つ。予想していた通りだけど、やっぱりこいつ人がお洒落しても全く気にしないのね!更にむかついたからデンジから顔をそむけて、早く行こうよ、と促す。



「ほら、これ着ろよ」
「え、」
ぱさり。肩に何かがかけられる。驚いてデンジにかけられたものを見てみたら、それは先ほどまでデンジが着ていた暖かそうな上着だった。振り返れば上着を着ていないデンジがいる。下に着ていた服も暖かそうだった。しかも似合ってるしかっこいい。じゃなくて、え、なにこれ。



「腕通さないの?」
「え、いや、違くて、これじゃデンジが寒いじゃん!」
「俺はいいんだよ、男だし」
「風邪ひいちゃうよ!」
がひく方がやだ」
デンジの優しさに胸の奥までが暖かくなる。うっ、ごめんねデンジ、さっきまで暴言ばっかりはいてたよ。デンジが貸してくれた上着に腕を通してきちんと着てみたら、上着からデンジの匂いがした。なんだか嬉しくなって、くるりとその場で回ってみる。視界の端でデンジが呆れたように笑った。



「あのさ」
「なに?」
「そのワンピース、かわいいしに似合ってるけど、俺以外の前で着ないでね」
それに今日着てると風邪ひくぞ。そう言って、どこか恥ずかしそうにそっぽを向くデンジ。その言葉に放心してぽかんと口を開けていたら、デンジに手を握られて、ほら、行くぞ、と促された。この寒い中、薄着でデンジを待ってて良かった!嬉しくなって似合う?って聞いてみたら、デンジは笑いながら、似合うよ、と言った。




























(ガールインザコールドワールド//2010.03.30)