いつから私は一人でいるようになったのだろう。少し前までは誰かと共に旅をしていたと言う記憶があるのに。今となっては、ぼやけたフィルターがかかって思い出すのも大変なのだが。(ううむ、名前すらでてこないとは)『ゲンさん!』きれいな声で私の名をいつも呼んだ。呼ばれるたびに私は嬉しく感じていた。『あ、あのポケモンってゴンベなんじゃないんですか?』『そうだよ、あれがゴンベだ』楽しかったはずの日々。記憶の片隅にしかない。(どうしてなのだろう、なぜ、消えてしまった?)

揺れる髪、降りしきる雨、嬉しそうな笑顔。

『あ、あのゲンさん!』そうだ、あの日はこんな風に雨が降っていたな。突然振り出した雨、二人で洞窟に雨宿りした日。私は彼女に好きだ、と言われた。私はそれが嬉しくて、彼女に口付けをしてしまったのだ。恥ずかしそうに顔を赤らめる彼女が愛おしくて、もう一度口付けた。『私も が好きだ』私が微笑めば、彼女も嬉しそうに笑った。それでまた口付ければ、『ゲンさん!』と照れながら言っていた。それもまた、愛おしかったのだ。

暖かい温もり、止んだ雨、消えた笑顔。

そっと抱きしめたら、彼女は俯いた。『どうしたんだ、 』『ええっと・・・ですね、』苦しそうに、少しずつ言葉にしていったことは、とても残酷なことだった。『私、ホウエンに帰ることになりました』俯いた顔を上げない、そのままだった。あの時彼女は泣いていた。でも、私はそれに気付かないふりをしていた。(行くなとどうして言えなかったのだろうか)『・・・そうか』出発はいつだ、と聞けば、明日だ、とすぐに答えた。『なんでいままで黙っていた?』『ごめんなさい、言える勇気がなくて』顔を上げないから、無理矢理上げてまた口付けて。『さようなら』彼女はそれだけ言ってそれから、遠い場所へと飛び去っていった。お互いの気持ちが通じ合えたはずなのに、それはすぐに儚く消えた。

なぜ私は君を忘れた?

彼女が欠けたことは私にとって酷く悲しいものだった。ルカリオにも心配された。(なんてみっともないのだろう、私は)ああ思い出した、あれは1年前のことだ。でもまだ名前は出てこない。揺れる髪の毛、愛しかったあの笑顔。『ゲンさん』私の名前を呼ぶ、君。痛みをなにかで補おうとした結果が、忘却だった。しかしなぜいまになって思い出すのだろう。疑問は浮かんで浮かんでしようがなかった。

『ゲンさん』

ああ思い出したよ。ずっとずっと忘れようとしていた記憶。君が居た世界。私が愛した世界。遠く離れた場所にいる君を。私は本当に愛していた。・・・いや、いまでも愛している。会いに行こうとすれば会いにいけるのに。・・・私は、傷つくのを恐れた。彼女に拒まれるのが怖かった。ただそれだけで、忘れようとしていた。自分の気持ちに嘘をついてまで、彼女を傷付けてまで、自分の身を守った。
一年も待たせてしまった。遅くなってすまない。いまから行こう、君が居る場所に。君に早く会いたい。ああそうだ。
・・・愛している、



(そこに私はいないのだが)






2006.12.30