Knight or Fighter

「進化かぁ」




ぽつり、主人が呟いた。進化。自分もいつか達するであろうものだ。おそらくそれはそう遠くはない未来で、自分があと少しでも努力すればたどり着くのではないかと思う。自分はまだ弱い。力あるものに襲われてしまえばあっという間に倒されてしまうような、そんな力しか持っていない。―――情けない。自分の弱さが嫌になる。このままでは主人を守れない。イライラしていた自分に気付いたのか、主人は自分の頭を優しく撫でてくれた。「どうしたの、ラルトス」主人、なぜ貴女の声はこんなにも自分の心に響くのでしょう。嬉しくて主人に摺り寄ると、主人は笑いながら小さな自分を抱きしめてくれた。


「・・・、私に嫉妬でもさせたいのかい」「しばらく黙ってたと思ったら第一声がそれですか」「仕方ないだろう、見ていたかったのだから」「ゲンさんよくわかんないねー、ラルトス」「そうやってまた私の相手をしなくなる」「・・・そんなに焼きもち焼きさんでしたっけ、ゲンさん」「・・・さあ、どうだろう」「ゲンさんよくわかんないねー、ラルトス」


主人に抱きしめられた状態でどうにかして主人の表情を見ようと顔を上げる。む、この角度では見えない。元々椅子(人間はソファーと呼ぶらしい)に座っていた主人は、なんとなく自分の意思に気が付いたのか、自らの膝の上に自分を乗せてくれた。主人の膝の上からなら顔を上げればいつだって主人の表情が見える。満足した自分は今度は大胆にもこちらから主人に抱きついた。短い自分の手では主人の腰まで回すことは出来なかったが、それでも自分は幸せだった。しまった、この体制では主人の表情を見ることはできない。後悔はしたが、主人から離れるようなことは一切しなかった。


「エルレイドとサーナイト、どちらにするんだい?」「ラルトスが望む方に進化させてあげたいんです」「もう少しでキルリアになるだろうし、早めに決めないといけなくなるだろうね」「んー、ラルトス、どっちがいい?」


今まで生きてきた上で、自分がどのように進化するかは見てきた。どちらの力でもきっと主人を守れるはず。特殊な力を操るか、それとも自らの力で主人を守るか。どちらにせよ、弱すぎる今の自分には検討もつかない未来だ。(主人はどちらを望むのだろう)進化しても何も変わらなかったらどうしよう。主人を落胆させるような力しか持っていなかったらどうしよう。―――そんな結末は、嫌だ。遠くはない未来は必ずしも良いものとは限らない。自分にとって、主人を落胆させるようなことが一番の嫌な未来だ。進化することが良いことなのだろうか。進化して主人に嫌われないだろうか。少しずつ、進化に不安を抱き始める。


「わたしはラルトスのままでもいいけどね」「意外に彼もそう思ってるかもしれないな」「エルレイドにしたってサーナイトにしたってキルリアにしたって、わたしの大切な相棒であることに変わりはないもんね」


主人は、いつだって一番に自分のことをわかってくれている。欲しい言葉をくれる。『ありがとう』未熟なテレパシーは伝わっただろうか。言葉を交わすことが出来ない自分の気持ちは伝わっただろうか。主人はまた自分の頭を優しく撫でてから、「こちらこそ」と心に染みるような声色で言った。


「ゲンさん、この子が強くなったらルカリオと戦わせてくださいね」「あぁもちろん、私も楽しみだよ」


主人と、主人を愛するあの方をお守りするため、自分は今日も強くなることを望む。




待望の進化