ジリ、


ジリジリ。






わたしとアイクの行動に効果音をつけるならば、当てはまるのは間違いなくこれだろう。一歩わたしが退けば、一歩アイクが近付く。真ん中に机を挟んでの攻防戦。真ん中に机があるから、くるくる回ってるだけなんだけど。
たぶん、一度でもアイクから目を逸らしたら負けだ。ぎらぎら光るアイクの瞳がわたしの目を捕らえて離さない。ぎらぎら、ぎらぎら。まるで飢えた獣みたいな瞳。ていうかわたし、食われるんじゃないのかなこれ。まあ、なんというか、アイクに捕まったらまずい気がするのだ。



「…、もう諦めろ」
「い、いやだ」
「じゃあ止まれ」
「同じだよ!」




ぎらぎらぎらぎら、光るアイク瞳。蒼くてきれいだけど、なんだかこわい。いつまでもくるくる回り続けるこの状況に嫌気がさしたのか、とうとうアイクが足を止めた。つられたようにわたしも足を止めて、それから大きくため息をついた。ああ、怖かった。



「そろそろいいだろう」
「な、なにが!」
「キスさせろ」
「なーーー!!!」
「ほら、早くしろ」




立ち止まっていたアイクが再び動き始める。それにあわせてわたしも動き出す。待て、待て待て待て待て。今、アイク、なんて言った?『キスさせろ』?え、はあああああ!?アイクが口に出した言葉はまさしく爆弾発言だった。
アイクとわたしは、確かに恋仲と呼ばれるものだ。だけど、そんな、いきなり『キスさせろ』なんて、恥ずかしすぎる!!アイクの瞳は相変わらずぎらぎら鈍く鋭く光っている。



「キスさせろ!」
「いいいいいや!まだ、むり!」
「まだ?じゃあいつならいいんだ!」
「なんでそんなにき、キスしたいの!!」
「好きだからだ!」
「え、あ、うああ」




アイクがさらっと告げた告白に胸がどきりと高鳴る。いや、ときめいたからって良いわけじゃないよ!流されちゃだめだ!獣みたいなアイクにばりばり、た、食べられる!ぎらぎらした瞳がやっぱり怖くて、思わず目を逸らしてしまった。その時。



「捕まえた」
「ひ!」
「逃げるな」
「ああああああい、アイク、」
「なんだ」




にたり。アイクらしからぬ、厭らしい笑みをアイクが浮かべた。その笑みにもどきり、胸が高鳴る。がしりと強い力で掴まれたわたしの腕のせいで、わたしの体は全く動かない。ぐい、と腕を引かれたと思ったら、目の前にアイクの顔。そして、唇に暖かくてやわらかなものが触れる。



「行くぞ」
「え、あ、どこに?!」
「俺の天幕だ」
「なななな、なんで!」
「食う」
「は?」
「食うからだ」
「え、は、ばりばりと?!」
「バカか。まあいい、行くぞ」
「え、えええ」
「覚悟しろよ」



にやり、アイクが笑った。










目を逸らすな敵はすぐそこだ//2010.03.30)