「すまない、!」

「へ?」


突然勢いよくわたしの部屋に飛び込んできたジョフレ。今日は大した仕事がないのか、よく見掛ける甲冑姿ではなく軽装だった。急いで来たのか、髪が乱れている。ただ、一つ言えるのは、さすが将軍、ということ。どれだけの距離を走って来たのかはわからないけれど、息一つ切らさないなんてすごい。それで、ジョフレはどうしたんだろうか。


「どうしたの?ジョフレ」
「あ、ああ」
「?」

なんだろう、ジョフレの目が游いでいる。わたしと目をあわせようとしていない気がする。わたしの前に立つ、わたしより身長の高いジョフレの顔を下から覗き込む。ばちん。ようやく目があったけど、また逸らされた。なんだか面白くない。少し腹が立ったので、ジョフレの顔に自分の顔を近付けてみた。こんな大胆なこと、いつものわたしだったらしない気がする。


、あまり顔を近付けるんじゃない!」
「えーなんで?」
「い、いいから止めろ!」



なんだろう、ジョフレ、今日変な気がする。いつもも確かに女性は苦手です!って感じだったけど、今日はいつもより、っていうか、わたしに対しては割りと自然な態度で接してくれてたはずなのに…これじゃ、他の女の子とおんなじだ。………面白くない。ジョフレに好意を抱いている身として、それは全く面白くない。





「ジョフレ、どうしたの?なにかあったの?」
「その、だな…私が明後日から戦に行くことは知っているか?」
「うん。心配だよ」
「それでだな、その、頼みがあるんだが」
「頼み?」
「ああ」
「…ジョフレが大きなケガもしないで帰ってきてくれるって約束してくれるならいいよ」
「!…ああ、約束しよう」
「じゃあいいよ!それで、頼みって?」




ジョフレが顔を逸らした。ますます意味がわからなくなる。なに、ジョフレの頼みってなんなんだ。「ジョフレ?」突然ジョフレに腕を引かれて、部屋にあるわたしのベッドに連れていかれる。名前を呼んでみてもジョフレは返事をしてくれない。ベッドに座らされたと思ったら、今度は押し倒された。目の前、鼻と鼻とがぶつかりそうな距離にジョフレの端正な顔がある。って、ええ!?


「頼み、なんだが」
「う、うん」
「私が戦いから帰ったら、結婚してほしい」
「うん………って、はいぃ?!」
「駄目、だろうか」



ジョフレの澄んだ瞳が、わたしの瞳を捕らえて離さない。その力強い瞳から視線を逸らすことなんてできるはずがない。突然『結婚してくれ』なんて言われて驚かない人はいないはず。それも、自分の好きな人に。



「だ、駄目じゃない!わたしも、ジョフレと結婚したい!」


なんかいろいろ手順をすっ飛ばしている気がするけど、もういいや。わたしが答えたら、ジョフレはすごく幸せそうな笑顔を浮かべた。ジョフレ、ジョフレジョフレジョフレ。わたしがジョフレと結婚なんて、夢みたいだ。…もしかして、これ、夢?頭の中でもやもや考えていたら、いつの間にかジョフレの顔が目の前からなくなっていた。かわりに視界の隅っこで、水色が揺れた。ちり、首筋に小さな痛みが走る。



「え、あ、ジョフレ?」
「…すまない、。自分を抑えることが出来なさそうだ」
「え?」

続いて、生ぬるい何かが首筋を這う。え、ちょ、まさか、これは、ジョフレの、舌!?そんな展開望んでないんですけど!


「じょ、ジョフレ!?」
「黙って」



ちゅ。わたしの唇にジョフレの唇があたる。どうしよう、わたしの頭が状況についていっていないんだけど。



「いただきます」













いやあのあながち順序は間違ってないけどさ//2011.01.08)