つまるところ、


「なに、してるんだ?」

聞こえた声でハッとなる。虚ろだった意識が覚醒したようだ。重かったはずのまぶたが急に軽くなる。うずくまっていたからか、体のあちこちが痛みを訴えてきた。あいにく相手をするほどそんな心の余裕はない。無理な体制するんじゃなかった。心の底から後悔したあと、思い出したかのように勢いよく振り向いた。わたしを覚醒させた声の主が、不機嫌そうにこちらを見ている。

「ア、アイク」
「何していたんだ?」

夕涼みに来たつもりだったが、あまりに心地よかったので居眠りをしてしまった、だなんて言えない。そんなことを言ったら、『俺たちは追われている身なんだぞ』と説教をくらうに決まっている。どうにか嘘をつかなければと焦っていたら、呆れたように青い髪の青年はため息をついた。

「大方『夕涼みに来たつもりだったが、心地よくて眠ってしまった』というところだろ」
「ど、ドンピシャですアイクさん」
「お前は本当に…」

げ、怒られる。なにがくるか分かっているので地味に身構える。戦うときの構え方は全く関係ない。耳をふさいで目を閉じるという、誰にだって出来る簡単なガードである。わたしはこのガードをよくつかってたりする。大半は、アイクからの説教につかわれるわけなのだが。耳をふさいでいても、いつまでたっても激は飛んでこない。気になって少しだけふさいでいた手の力をゆるめて隙間を作った。

「…俺はお前が心配なんだ」
「…え?」
「あ、あんまり俺にストレスを溜めるなと言ったんだ!」

慌てて目を開いたときにはもう、彼の背中は闇に溶け込んでいた。走り去る足音だけが聞こえる。彼がなにを思ってそれを言ったのかはわからないが、わたしはただ、呆気にとられるばかりであった。



期待



していいって



ことだよね?