光子郎くんが住んでる東京と、わたしが住んでいる町とは、片道約一時間ほどかかるくらい離れている。遠距離すぎるわけじゃない、かといって頻繁に会えるわけじゃない。わたしたちはそんな恋人同士だった。本当は先週会う約束だったんだけど…光子郎くんの急な用事により、わたしが電車の中(それもあと二駅のところ)で中止になってしまったのだ。あのときのわたしの顔は多分すごい落ち込んでたと思う。光子郎くんはお家の用事で会えなくなっただけなのに、わたしは光子郎くんにフラれた、というところまで暗いオーラをしょってたらしい。だって、ギリギリでのドタキャンなんて、傷つくでしょ!



今日はそのリベンジの日だった。二人してずっと見たがってた映画を大きな映画館で見るつもり。大人気らしい。…でも、公開してから三週間経ってるから、大きな映画館の、小さな部屋で、少人数で見ることになるんだと思う。いやだな、ポップコーン食べる音響いちゃったら恥ずかしくて死ねるよ。光子郎くんも楽しみにしてるみたいだから、張り切っておしゃれしてみた!…自分なりにはだけど。カバンの中から100円均一で買った鏡を出して髪型をチェックする。よしよし、いい感じ。鏡前で一時間格闘した甲斐があった!


ガタンゴトンと電車は特有の音を出して進んでく。実は、この電車じゃ待ち合わせの時間に間に合わなかったりする。…鏡前で格闘してたら、待ち合わせ時間10分前に着く電車に乗り遅れてしまったのだ。うう、光子郎くんも遅刻してたら助かるんだけど。(わたし、最低かも)映画には普通に間に合うんだけど…光子郎くんを待たせたくなかったなあ。光子郎くん、お願い、ちょっと遅刻してきて!…そのとき、手にもった携帯のライトが点滅しているのが見えた。『光子郎くん』と表示されているのに気付き、あわてて携帯を開く。メール一件、受信中!



『張り切りすぎたみたいです。もう着いてしまいました。』うそー?!わたしあと二十分は着かないのに、光子郎くん、今まだ待ち合わせの三十分前だよ!わたし、待ち合わせ時間の十分前に到着予定だったのに…光子郎くん、ちょっと早すぎるよ!『うそ!ごめんね光子郎くん、わたしまだあと二十分はかかりそう!』送信、送信!駅の改札前で待ってる光子郎くんを想像したら胸がきゅんってなって、それから今度はなんだか切ない気持ちになった。うー、まだ着かないのかな。あ、ようやく次の駅に着いた!目的地まで、まだ遠い。


『僕なら大丈夫です。さんをこうやって待つの、好きですから。ゆっくり来て下さいね。』あー光子郎くーん!!胸がきゅんきゅんしたよ今!まだ十五分はかかるよ光子郎くん!窓の外から見える景色にもどかしい気持ちを覚えた。ちくしょー、早く着かないかなあ。『ありがとう光子郎くん…!ちょっと待っててね、急ぐから!』『さん、電車が急がないと意味がありませんよ。』『た、確かにそうかも!…でも本当にごめんね!』『大丈夫ですって。僕が早く来すぎたのがいけないんですから。』『ありがと!あとちょっとで着くよー。』

口元がなんだか緩むなあ。光子郎くんのメール一通一通が心をきゅんきゅんさせるんですけど!ラブハンターかなんかなのかなあ光子郎くん。あと四駅もあるよ、うぅー。『わかりました。気合いいれて待ってますね。』『あと四駅!気合いってなんの?!』『大好きなさんに久しぶりに会えるんですから、かっこわるい僕を見せたくないんです。』(ああ、もう、急いでよ、電車!)早くあなたに会いに行きたいの!…あれ、またメール?『さっきのメール消して下さい!』