君がいなくなってから、この世界はつまらないことだらけだ。何をしたって面白くなんかないし、刺激を求めようとも思えない。それほどまでに君は僕の全てで、今でも君だけが僕を縛って離さない。離されたくない。僕だけが取り残された世界で、僕だけがのうのうとこの世を生きている。でも、君はもう、死んでしまった。



 僕と彼女が出会ったのはもうずっと前のことで、初めて会った時に彼女が連れていたゴースも最後に会ったときにはすでにゲンガーになっていた。時が過ぎるのはとても早いようだ。僕と彼女が出会ってから、僕の世界は今までよりももっと明るくなって、そしてきらきらと輝いていった。ジムや修行の予定がなければ必ず彼女に会いにいき、ともに時を過ごした。かけがえの無い記憶。長いこと一緒にいる内に、僕は彼女の優しさに触れ、笑顔を見、いろいろな彼女を知って、そして、恋に落ちた。好きだった。


 修行をしていても、ときどき彼女が頭の中に割り込んできて、修行が台無しになったこともある。彼女と出かけることが楽しみで子供のように眠れなったこともある。彼女に会う日、盛大な寝ぐせが治らず、少しだけ誤魔化して行ったら大笑いされたこと。忘れられない大切な思い出。忘れたくない、大切な思い出。



 僕はまだ、この胸に宿る暖かな想いを彼女に告げることができていない。彼女はもういないのに、いや、いないのだから、口に出してしまえばいいのに、どうしてか声に出すことを僕は躊躇っている。だからいなくなってしまった彼女も、僕の想いを知らないだろう。今も昔も、そしてこれからもずっと。この気持ちは僕の中で永遠に生き続ける。彼女の思い出と一緒に。彼女の代わりに。

 彼女の記憶は僕の中にある。他の人の中にもある。僕のポケモンたちの中にも。彼女がいた形跡はそこら中にある。僕のジムにも、家にも、この美しきエンジュの町にも。彼女と一緒に見た景色も、『強いトレーナーに』と願いを込めた絵馬も、共に時を過ごした僕の家も、何も変わらずに残っている。

 名前を呼んでもいいだろうか。誰かに咎められることはないだろうか。会いたいと願うことは許されないことなのだろうか。彼女の笑顔を思い浮かべ、そして願う。、君に会いたいと。この気持ちを、伝えたいと。叶わないなんて分かりきっているんだ。それでも、僕には沢山の心残りがある。