―――ツ・・・さ・・・
(誰の、声だ?)
―――マツ・・・ん・・・
(僕は知っている)
―――マツバさん・・・
(ああ、君なんだね、

 

 暗くて静かな世界に、がぽつんと立っていた。久しぶりの彼女に、胸が躍る。嬉しくなって駆け寄ると、何故か彼女が僕から逃げるように走り出す。不審に思いつつ僕も追いかけるが、彼女が止まる様子はなく追いかけっこをしているようになってしまった。彼女はどこへ向かっているのだろう。しばらく彼女の背中を追っていたら、見覚えのある場所にたどり着いた。やけたとう、だった。
やけたとうの中で漸く立ち止まった彼女に声をかけようと一歩一歩何かを確かめるかのようにゆっくりと近づく。今度は彼女が走り出す気配もない。「」彼女に触れようと、手を伸ばす。僕の声に反応した彼女が振り返り、「こころのこりが、あるのです」と、そう確かに告げた。それから突然まばゆい光がやけたとうを、僕らを包み、僕は眩しさのあまり反射的に目を閉じた。
 目を開いたらそこはなんの変りも無い、殺風景な僕の部屋だった。




 なんとなく、なんとなくだった。ジムでの仕事も無かったし、かといって特別やりたいことがあったわけではなかった。だからこそ、夢で彼女と再会したやけたとうへと向かうことにしたのだ。何かがあると思ったわけではない。期待しているわけではない。ただ、彼女との思い出を確かめたかった。それだけだった。


 相変わらずやけたとうは黒を主とした色合いのくせに日中はとても明るい。それは焼けたせいで天井がないからというだけなのだが。このやけたとうはいつか崩れてしまうのだろうか。彼女との思い出が沢山詰まっているというのに、それでも、崩れるのだろうか。煤けた柱に触れてみたが、柱が崩れるということは起こらなかった。



 との思い出を確かめるように、思い出すように、やけたとうの内部を細かく一つ一つ見て回る。元々焼け落ちてしまっているから入れないところもあるのだけれど。
 やけたとうは、酷く懐かしかった。そんなに長いこと訪れていなかっただろうか。いや、ミナキに付き合って何度か訪れているはずなのだが。それでも何故かやけたとうは久しぶりに訪れたと錯覚してしまうほど懐かしく感じられた。のことを考えているからだろうか。疑問が尽きることはない。


 足を最深部まで進めていく。地下にはよくスイクンを始めとした伝説のポケモン達が訪れる。もちろん今はいないのだが。昔、と一緒にスイクン達に会いたいとぼやきながら降りたな、なんて思いながら梯子を降りていた、そのとき。何かの気配と、小さな音がした。反射的に音がした方向を見たら、そこにはとても見覚えのある、懐かしく、そして、酷く愛しい人の、背中があった。