(どうして、どうして君がここに。いるはずのない君が、ここに。もう会えないと思っていたのに。どうして、どうしてどうして見覚えのある背中がそこにあるんだ。どうして最後に会ったあの時と全く変わらない姿で君はそこにいるの。ねえ、君は、だろう?)声をかけたいのに声は音にならない。彼女の耳には届かない。今すぐにでも彼女に駆け寄って抱き締めたいのに足が凍ってしまったかのようにびくともしない。頭の中は疑問と欲望が渦巻いてごちゃごちゃになってしまっている。ただ、分かることは、そこにいるのは確実に彼女だと、だと、いうことだ。
 


「マツバさん」
 聞こえた声はとても嬉しそうだった。実際、振り返った彼女はとても嬉しそうな表情を浮かべていた。やはり久しぶりに会う彼女は何も変わってはいない。優しい笑顔も、やわらかな視線も、身長も、髪型も、何もかも。彼女に会えたという喜びが体を突き動かそうとする中、理性が危険を叫んでいる。―――何故死んだはずの彼女がここにいるのだ。そこにいる彼女は本当にハルか?彼女と視線が合った途端、全身の毛穴から冷やかな嫌な汗が出た。何故、彼女はいるのだろう。



、なの、かい」
 漸く音になった言葉はとてもたどたどしいものだった。遅れて凍りついていた体も自由になる。彼女の存在を確かめるように一歩一歩に近づいてみた。あの頃と何も変わらないが、僕の目の前にいた。
「はい、です」
「どうしてここに」
「ええっ、酷いですね!いちゃ駄目なんですか?」
「いや、違うけれど、」
「・・・帰って、来ちゃいました」


 その言葉は僕の今にも薄まって消えてしまいそうなほど淡い期待を、残酷にも叩き崩した。もしかしたら彼女は生きていたのかもしれないという、小さな期待。もちろんそれはただの期待でしかなかった。やはり彼女は死んでいたのだ。一年前に。



「ごめんなさい、帰ってきて」
「どうして君が謝るんだ。謝らなくていい、だって僕はこんなにも嬉しくて嬉しくて仕方ないのだから」
 今日は僕の舌がよく回る。彼女と会話をしているからだろうか、それともただ単に動揺しているだけだからだろうか。自分の頬を涙が伝うのを感じる。果たして僕が泣いているのは彼女との再会を喜んでいるからだろうか、それとも、純粋な恐怖からだろうか。



彼女は、『みえないもの』だ。