「ネジキ」ネジキは何も答えない。瞳はぼーっと空を見つめるだけ。お気に入りのはずの機械も地面に落とされたまま、触ろうともしていない。
「ネジキ」ネジキは何も言わない。振り向きもしない。ただわたしには見えない何かを見つめている。ネジキにはわたしの声は届かないのかな。
「ネジキ」ネジキは手を伸ばせば触れられそうなところにいるのに、別の世界にいるような気がしてならない。ネジキ、わたしの声が聞こえる?わたし、あなたの近くにいるんだよ。ネジキからの返事はない。



「ネジキ」立ち尽くしたままのネジキの背中はどうしてかいつもより狭く見えた。心なしか震えているような気もする。
「ネジキ」しゃがみこんだネジキの体は細かく震えていた。わたしは相変わらず動けない。辛そうにしているネジキを近くで見守ることしかできなかった。
「ネジキ」一歩一歩ネジキに近付いて、隣に座る。隣に来て、ようやくネジキはわたしを見た。揺れ動く瞳にわたしが一人、映っている。



「ネジキ」ネジキがわたしと更に距離を詰めた。ネジキの肩とわたしの肩がぶつかる。相変わらずネジキは何も言わないけど、わたしはなんとなく満足だった。
「ネジキ」彼が自分の頭をわたしの肩に預けた。普通性別逆じゃない?と思ったけど、あんまり考えないことにした。
「ネジキ」きっとネジキには何かが起こったのだろう。それがなんなのか、まだわたしにはわからないけど、わたしがネジキの隣にいることでネジキが安心してくれるならそれでいい。ネジキは今きっと何かに失望している。何かを落としてしまったんだろう。わたしはネジキじゃないけど、ネジキの気持ちが完璧にわかるわけじゃないけど、彼に欠落したものに、わたしがなれればいい。