は突然居なくなった。本当に突然だ、私が最初、気が付かなかったほどはすんなりと、鮮やかに、溶けるように居なくなった。緑の私と対極の位置にいるような。そのは、ある女性にとってとても大事な色だった。その女性が持っていたパレットの上にはいつだってそのが存在していたから第三者の私にもよくわかる。彼女はパレットの上の色を心から愛していた。なくなってしまったにいち早く気が付いた彼女は、がない現実にただ、泣いていた。



」「オスカー、」「泣かないで、」「オスカー、わたし、もうだめかもしれない」


彼女にとって大事なが消えた今、私は何をすればいい?緑はの代わりになんてなれない。色が違いすぎる。だがこのまま彼女を救えないなんて、そんなことは絶対に避けたい。どうすれば彼女は自分自身を保てるんだ。緑の私には何ができる?…ああ、何も思い付かない、とはこういうことだったんだね。頭の中まで緑のはずの私の頭は、いつの間にか真っ白に塗り潰されてしまっていた。白は、を愛する彼女の色だ。…やはり私はとは似ても似つかない。当たり前のことではあるんだけど。

「オスカー、どうしようもないよ、もう無理、わたし、」「泣かないで、。私は君の涙は見たくない」「でもオスカー」「私を頼って。私は君と一緒にいるから。君は一人じゃない」


私はいつの間に彼女を好きになっていたんだろう。いつの間に彼女をかけがえのない存在だと認識し始めたんだろう。私にはもう彼女が必要なんだ。彼女無しの世界なんて考えられないようなくらい。(依存とはこういうことを言うのかもしれない)だから私は彼女に悲しんでもらいたくない。いっそを忘れさせて緑で彼女を埋め尽くしてしまいたい。可能ならすでにやっているんだけどね。


「ケビンに会いたいよオスカー。どうしたらケビンに会えるの。会いたい、会いたいよ、ケビン」


緑はを消そうと必死になっている。飲み込もうとしている。でも彼女が筆を構えれば、あっという間にそれは無意味になる。何度も何度もバケツに筆をいれて元通りにしてしまう。そうして色は流れていく。緑を押しのけて、パレットの上を、さらさらと。