Wherever you are,









ある日突然、ぱたりとレッドからの連絡が途絶えた。状況を報告してくれたり、他愛もない話をする電話も、たまには電話じゃなくてもいいじゃないかって定期的にやり取りしてた手紙も、来なくなった。そのやり取りを手伝ってくれていたピジョットも、長いこと姿を見せてくれていない。この間、レッドのお家にお邪魔してみたのだけれど、彼のパソコンは長い間使われていないようだった。わたしはこうしてレッドの帰りを待ち続けているというのに、レッドは連絡すらも寄越さない。不安や、心配どころではない。そろそろわたしの気が狂うんじゃないのだろうか。・・・ありそうだから、怖い。

レッドとわたしはいわゆる恋人という仲だった。レッドとはお互いの旅の最中に偶然(彼は運命だとか言ってたけど)出会って、トレーナー同士仲良くなって、そしていつの間にか、わたしは彼に惹かれていた。実らないと思っていたし、実らせるつもりもなかったその恋は、レッドからの告白という形で実ったのだ。予想外のことに驚きすぎて、返事は返したものの、次の日わたしはそれを夢だと思い、いつも通りにレッドに話しかけて非常に怒られたものだ。そのころからわたしはレッドの故郷のマサラタウンに住むようになった。


カントーでレッドという少年を知らない人はいない。ロケット団を壊滅させ、なおかつチャンピォンとなった人物だ、さすがにそれは有名になるだろう。わたしはそんな素晴らしい活躍をしたレッドが好きだったし、なにより一人の人間として尊敬していた。わたしのように平凡に暮らしていればそんな所業は成せないだろう。

ある日レッドは『もう一度旅に出て、初心に帰ってみる』と言って、あっさりとチャンピォンの座を降り、周りの反対も無視してマサラを飛び出していった。もちろんわたしはレッドを縛り付けるつもりはなかったし、旅についていく気もなかったから、笑顔で再び旅に出るレッドを送り出した。そりゃあ、とても悲しくて、その話をレッドから聞いたときは感情を抑えきれずレッドのいないところで延々と泣き続けたけど、わたしはレッドに自由に生きてほしかった。泣いているところをレッドに見られたらわたしを心配するだろうし、もしかしたら旅に行くことを止めてしまうかもしれない。レッドを縛りたくなかったわたしは、レッドに本心を言えずに、レッドの後姿を見送った。
何も言わなかったのにレッドは察してくれていたらしく、頻繁に電話を寄越し、時には途中で捕まえたらしいピジョットとともに手紙も送ってくれた。いわゆる文通というやつだ。確かに会えないのは辛かったけれど、レッドの旅先での事件とか、レッドのいる環境のこととか、色々お話しができたから、寂しさも悲しさも少しずつ薄れていった。もちろん、いつだって会いたかったけれど。レッドは電話でも手紙でも、いつでも『必ず帰る』という言葉を出していた。わたしはそれを、信じていたのだ。



そして、ある日、レッドが旅に出て一年ほど経った頃、レッドからの連絡は、ぷつりと途絶えた。ピジョットも来なくなった。噂すらも聞かなくなった。最後の電話でも彼はどこに行くとは言っていなかった。ジョウトの方に興味がある、とは言っていたけれど、それ以外はいつも通りの他愛のない話しかしなかった。わたしも詮索しなかったし、いつものことだから気にしていなかった。でも、レッドからの連絡は途絶えてしまった。わたしは、彼の居場所を知らない。

わたしはレッドを探そうとしなかった。レッドの『必ず帰る』を信じていたからだ。嘘じゃないだろうし、彼は絶対守ってくれる。だからわたしは、レッドが帰ってくるこの家を守ろう、そう思っていた。けれど、レッドは帰ってこなかった。もちろん連絡も来なかった。心配で心配で、不安で不安で、嫌なことばかりが頭をよぎって毎日気が気じゃなかったけど、それでもわたしは待ち続けた。レッドの、言葉を信じて。




でも、状況は一変した。ある日、ゴールドという少年がわたしの家を訪ねてきたのだ。すでにレッドが旅に出てから一年と半年ほど経っていた。
「オレ、レッドさんに、会いました」
その言葉はわたしを元気づけるには十分、いや有り余るほどのものだった。その言葉の次の言葉を聞くのが待ち遠しくて、でもなんだか心のどこかで引っかかるものがあって。―――なんで、レッドは帰ってこないの?浮かんでいた疑問は心の奥に閉じ込めた。だって、レッドは帰ってくるから。
「でも、様子がおかしくて。一言もしゃべらなかったんです。それに、バトルして、バトルが終わって、レッドさんを見ようとしたら、そこに、レッドさん、いなかったんです。レッドさんのポケモンも、レッドさんが居た形跡も、なにも、なかったんです」



ねえ、レッド。今あなたはどこにいるの?今何をしているの?ピカチュウは元気?今いる場所でも、人々が感謝するような活躍をしているの?・・・レッドだもん、もちろん活躍してるよね。わたし?わたしはマサラタウンで前みたいに暮らしてるよ。レッドのこと待ってる。早くレッドの姿、見たいなあ。ねえ、レッド。わたしのこと、好き?好きなら、早く帰ってきてよ、ねえ。







I think of you.






























レッド死亡説を聞いて