泣き声が聞こえる。押し殺したような、喘ぎのような、それも消え去ってしまいそうな小さな泣き声だ。でもその声にわたしは気付いた。そう、気付いてしまったのだ。彼がそれを隠していたのだとしても、わたしにはすぐに分かった。何故彼が泣いているのか。何故、声を押し殺す必要があったのか。他の人には分からないだろう。でもわたしには分かる。本当は誰にだって分かることだけど、誰も、分かろうとしないんだ。分かる気がないのかも。誰だって一度は感じたことのある感情なのに。


泣いているところ悪いけども、わたしは彼を慰める気なんて毛頭ない。なにを言ったって同情にしかならないから。どんなに善良な人が誠意を込めて魔法のような言葉を囁いたとしても、それは結局なにも生み出すことなく空気に溶けていくだけ。経験したことがあるからこそ言えるんだと思う。酷く落ち込んだ人間も、魔法の言葉を話す善良な人間も、わたしは経験した。(ある意味いい思い出だよなー)


泣き声が聞こえる。さっきより大きくなった泣き声。行ったってなんにも生み出さないのに、わたしの足はゆっくり、ゆっくりと泣き声に近づいていく。近づくたびに泣き声はどんどん大きくなるばかり。足は止まってくれない。止まろうとしない。それどころかどんどんスピードは上がっていく!意思とは正反対だ!…いや、本当は彼のいる場所まで走って行きたいのかも。彼に魔法をかけてあげたいのかもしれない。そこでわたしは、分かりきっていた自分の本心を、殺した。


とうとうわたしは彼の真後ろに来てしまった。彼も押し殺すことなく、大声で泣いている。日はいつの間にか沈み、まわりはとっぷりと暗くなっていた。「」びくりと、彼の背中が揺れる。満月のような金色の髪が少し動いて、彼はゆっくりとこちらを向いた。目は真っ赤に充血し、目のまわりも痛々しく腫れ上がっている。「」いつもの明るくはきはきした声じゃなくて糸のようにか細い声。「泣かないで」彼のせいで、わたしの声もおかしくなってしまった。震えている。「泣いて、ねーよ!」彼はごしごしと腕で目を擦った。そんなことをしたら、もっと目が赤くなってしまうのに。


善良な人間になる気なんてさらさらない。だからなにも言わない。星がわたしたちを照らしている。「俺、強くなる」「うん」「だれにもまけねーぐらいに、強くなる」「うん」「コウキなんか目じゃないくらい強くなる」「うん」「負けたく、ねー」「…うん」相づちを打つぐらいしかわたしにはできない。それでもはわたしに本当の気持ちを伝えてくれる。が自分の膝に顔を埋める。わたしは夜空を見つめる。星がきらきらと輝いていた。











(わたしにはなにもできないかもしれない。なにもしちゃいけないのかもしれない。なにかをするちからをもっていないのかもしれない。それでも、そっとあなたを照らすぐらいのことしたって、いいよね。)