「危ないよジュンくん!」
「へーきへーき!オレにできないことはなーい!」
「降りてきなよジュン!いくらなんでもその木は危ないって!・・・あ!」
「うわっ」
「ジュンくん!!」





思えばこの不可思議な気持ちはあの時から始まっていたのかもしれない。オレとはずっと昔から一緒で、いわゆる幼馴染とかいうやつで、小さい時はオレとコウキとの三人でいつも一緒に遊んでた。たぶんきっと、そう、これはあの時から始まっていたんだ。ただ気がつかなかっただけで、その気持ちはいつもオレと一緒だったんだろう。

あの時木から落ちてできた傷跡は未だにオレの左腕に残ってる。肩だからあまり見えないけど。その傷を見ては時々思い出すんだ、あの時のこと。は元気かな、とか。(コウキとはよく会うから関係なし)
そういえばとは長いこと会っていない気がする。オレが旅をしているからそう思えるだけかもしれないけど。はオレとコウキが旅に出てからどうしたんだろう。も旅に出たのかな?オレとコウキを追いかけてくれたらいいんだけどな、とか思って、なんだか恥ずかしくなった。あ、やべ、木の実踏んじゃった。


横を歩くエンペルトの足取りがなぜか軽い気がする。もうすぐフタバタウンに着くからかな。正直言えば、オレも故郷に帰れるのがとても嬉しい。きっとは居ないだろうけど、オレとコウキとが過ごしたあの町に帰れるだけでオレは嬉しい。町に戻ったら一度くらいの家に顔を出してみよう。きっとの母ちゃんも優しく迎えてくれるはず。あ、エンペルトが転んだ。

オレはどこへ行っても何をしていても、いつもが頭から離れなかった。今頃どうしてるかなとか、元気だろうかとか、女々しいけどそんなことをよく考えてた。のことを考えるといつも胸がきゅっと締め付けられるような気がする。時々異様に幸せな気持ちになったり、逆に悲しくなったり。この感情はなんなのだろうか。昔からあったけど、旅に出てから更に多くなったと思う。に会えばすべてわかるだろうか。更にオレの足取りは軽くなる。


フタバが見えてきた。とりあえず、着いたら家に帰ろう。母ちゃんの美味い飯を食べて、それからの家に行こう。まだ比較的空は明るいし、『こんな遅い時間に来るなんて罰金だぞ!』とオレのマネをされることもないだろう。
ふと、視界に移る人の影。もしかして。淡い期待を抱いて、歩調を少し速くする。オレの足音に気がついたのか、その人影はゆっくりと振り返った。

「ジュンくん!」

間違いない、だ!オレは駆け出す。エンペルトもおそらくオレの後ろで全力疾走しているだろう。そんなに距離はないはずなのに、なぜかが遠くに感じる。まだ、まだ着かないのか。そう思っていたらまで走ってオレの方へとやってきた。距離が、縮まる。

「おかえり、ジュンくん」
「旅に、でたのかと、思った」

久しぶりに全力疾走したからか、オレは息を切れ切れに言葉を発する。うまく言えているだろうか。もごもごしてたりしていないだろうか。にかっこ悪いところは見せたくない。

「出ないよ、まだ!わたしには早い気がするの」
「そっ、か」
「それにね、わたし、ジュンくんのこと待ってようと思って」
「・・・オレのこと?」
「うん!追いかけようかと思ったんだけど、待ってる方が確実かなって。ジュンくんに会えないの、さみしかった、から」


の目に浮かぶ涙を見て、オレはいろいろな感情に襲われた。うまく言葉が出てこない。(ええい!)勢いに任せて抱きしめてみた。まだオレの方が身長が全然高い。は驚いていたけど、ゆっくりと時間をかけて、もオレの背中に腕を回してくれた。暖かい。

「会いたかった」
「わたしも」
「連絡しなくてごめん」
「罰金百万円ね!」

くすくすとが笑う。何も変わらない。いや、身長とか、そういうのは沢山変わっていたけど、根本的なものは何も変わっていない。オレの心にあるこの、気持ちも。

ずっと昔からオレの心に宿ってた、そう、これが、この暖かくて切ない気持ちが、ずっとオレが気付かなかったこの気持ちが、と呼ばれるものなんだろう。





(オレに宿る)



不可思議な感情に







と名付けよう













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