「ねえティバーン、春が近いね」
「そうだな、冬じゃなくなるな」
「ねえティバーン、暖かくなるね」
「そうだな、もう厚着はしなくていいな」


わたしの発言をひとつひとつ丁寧に受け止めるティバーンはとても優しくて、わたしはいつだって浮かれてしまう。わたしはきっとティバーンの優しさにつけこんでいるのだ。リュシオンと仲が良いわたしを無下にはできないんだと思う。わたしは嫌な奴だ。自分でもわかる。ティバーンを自分のものだけにしたいなんてばかみたいに考えてる。もちろん実行になんか移さない。きっとティバーンは、わたしが嫌いだから。…ううん、嫌いでいてほしいの。


「ティバーンは優しいね、すごく優しい」
「そうか?俺はいつも通り接してるつもりなんだが」
「じゃあティバーンはいつも優しいのね」
「…そうだといいな」


ティバーンは優しい。部下の人達にも優しい。何よりも部下の人達を大切に思ってるんだろうし、反対に部下の人達もそう思ってるんだろう。ティバーンは素敵な人だから誰もが慕う。ティバーンは優しい。だってこんなにもどうしようもないわたしに対してだって、冷たい態度を一度もとったことがない。わたしはティバーンがすきだけど、ティバーンはわたしを嫌いでいい。だってわたしは、嘘つきでティバーンが思っているような存在じゃないから。



「どうしたの、ティバーン」
「お前は優しいな」
「そんなこと、ないよ」
「いや、お前は優しい」


ティバーンが優しく微笑みながらわたしの頭をそっと撫でる。わたしはその笑みにそれとなく罪悪感を感じながらも、そうかな、と当たり障りのない言葉を返した。わたしは嫌なやつなのに、ティバーンは勘違いをしている。ティバーン、わたしは最低なんだよ。ティバーン、わたしは貴方の優しさにつけこんでいるんだよ。口に出せないまま、心の中で押し殺した。ティバーンはわたしのことを嫌いでいい、なんて言ったけど、やっぱりそんなの、無理だった。



「うん?」
「なんでそんなに泣きそうなんだ」


わたしが泣きそう?そんなこと…あるわけないなんて断言できない。ティバーンに嫌われたくないけど、ティバーンに嘘もつきたくない。矛盾しているなんてわかってる。ティバーン、わたし優しくなんてないよ。あなたがすきなの。わたし嘘をついてるの。あなたの知っているわたしは本物じゃないの。頬を涙が伝う。


「ティバーン」
「どうした?」
「わたし、優しくなんてないよ、嘘をついてるんだよ」
「なんでだ?」
「ティバーン、あなたに嫌われたくないないの。あなたがすきなの。あなたには良く思われていたかったの」


自分の顔がどうなってるかなんて気にせずに、涙を流してしゃくりをあげながら、ずっと心の奥底に隠していた本心を口に出した。ティバーンはわたしの目を見ながら聞いてくれているようだったけど、わたしはティバーンすら見れなくて、わたしの視線は不自然なところに向けられていた。自分の気持ちをさらけ出しても泣き止まないわたしをティバーンは優しく抱きしめて、それから、

「ばかだな、俺はずっと前からお前が好きだったよ」
と言った。




冬が溶ける日





わたしはきっと、誰よりもが来るのを待ち望んでいた。