あの日君が言った言葉、俺はまだ覚えている。「なーくなーよ!」「ううっだって・・・!」「あたしはべそかく子きらい!」「ええ、やだっちゃんに嫌われたくないよ!」「じゃあ泣きやみなよ!男の子はね、泣いちゃいけないんだって!お母さんがいってた!」「じゃ、じゃあ泣かない!泣いてなんかないもん!」

「よし、それでいいんだよ太一!」
あの日の君の声、まだ覚えてる。(あの日に負った怪我だって、俺にまだ残っている)

「それでね、太一!」楽しそうにあいつのことを話す君が憎い。でも、そんな君が昔の面影と重なる。どんなことがあったって、君は俺に『泣くな』と言った。君の大事なペットが死んだ日、俺はすごく泣いた。でも君は泣かなかった。ただ、歯を食いしばって、ペットが埋まった墓の前に立っていた。そんな君とは逆に、俺は大泣きしていた。今なら言える、なんで君があの時泣かなかったのか、その理由が。

「こら、聞いてんの?!」「あー・・・聞いてますよ、はいはい」曖昧に返せば君は怒る。昔からそうだった。俺が適当に返事をすると、決まって俺を怒った。当時はすごく怖くて、あんまり怒らせないようにしたっけな。「太一ってさあ・・・変わんないよね」・・・は?俺の中で、変わってないのはお前だよ。そう言いそうになって、慌てて口を閉じた。(前からずっとそう思ってただなんて言えないから)「そうか?」とりあえず適当に返した。「そうだよ!」君のその笑顔だって、前から変わってないよ。そう言えたらどんなに楽なんだろうな。俺の心がズキンと痛んだ気がした。

「えへへ、今日ね、ヤマトくんと一緒に帰る約束してんだ!」嬉しそうにいう君が憎い。俺の思いは、どこかへ消えるしかないのか。
」「あ、ヤマトくん!えーっと、じゃあね太一!」君は俺に手を振るとそそくさとヤマトに近づいた。きっとあの二人が恋人になるのは近いことだろう。
いつごろからだっただろうか、俺がのことが好きだったのは。それだけ、覚えていない。ただ『泣くな』という君が眩しすぎて、憧れが恋に変わったということだけ、覚えてる。たとえ俺が君を好きでも、あの日のことをずっと覚えてても、君は俺が好きなわけじゃなくて、君はあの日の事を忘れてるかもしれなくて。あんなにも近かったはずの君が、手を伸ばせば触れたはずの君は、もうどこかへ消えた。俺と会話していたのは、あいつを思う君だ。俺の記憶にはない、変わった君。

俺が君に近づける日なんて、もう来ないだろう。なあ、君は覚えているかな。いつかなんて忘れたけど、君が俺に歌ってくれた歌。俺、まだそれ口ずさんでるんだよ。




(君はもう遠い)









2007.01.10