どうして俺が好きなんだと聞かれたから、『どうしてだろうね』と答えた。ただそれだけ。

あ、誤解しないでいただきたい。別に太一と仲が悪かったりするわけじゃない。なんと言えばいいんだろうか・・・愛の再確認?うわ!自分で言っといておかしいけど気持ち悪いよいまのセリフ!取り消し取り消し、いまのなしね!まあつまり、なんと言うか、要約すると太一はわたしの彼氏です。以上!

冬の帰り道は冷え込むな、と心の中で呟いてみた。わたしの数歩前をてくてくとテンポの良い音で歩いている太一はあまり寒くなさそうだ。きっと、さっきまでサッカーをやっていたからだろう。わたしも校庭の隅っこでガタガタ震えないでドリブルの練習とかしてみればよかったかな。今度体育の授業でドリブルのテストあるし。・・・いやいや、そんな面倒なことしてあったまるぐらいならポケットに突っ込んだカイロであたたまっていた方が楽だよ。

さっきから太一はわたしの方を振り返らない。いや別に気にはしていないんだけども。運動の後とはいえ寒いのは寒いらしく、髪の毛の隙間から見える耳は真っ赤っかだった。たぶんわたしの耳はもっと赤いと思うけど。(さっきからひりひりしてるしね!)

どちらも話さないまま道を歩く。残念ながらわたしは太一に話しかける気がない。太一から話しかけてこない限り、わたしは太一と話すことがあまりない。理由は一言で言うとめんどうくさいから。もうひとつ言うなら・・・そうだな、わたしがわがままだからってところです。

太一が、歩くのをやめた。下を向いていたわたしは必然的に太一の背中に思いっきりぶつかった。痛いな、なんて思いながら頭をさする。よかった、こぶにはなってないみたい。ゆっくりと顔をあげると、ばちん、なんて音がつきそうなぐらい思いっきり太一と目があった。相変わらず、なにも言わないけど。

なんだろうと思って太一を見つめてみた。本当は見つめるのも見つめられるのも苦手だけど、なんとなく今回だけは見つめてみた。太一がわたしになにかを伝えようとしている気がしたから。視界の端で、なにかが動いている。(ああ、そっか)「太一、寒いね」

のばされた手をゆっくりと握る。太一がまた歩き出す。太一の歩調ははやいから、ついていくのは結構厳しいところだけど今日は太一が手を握っててくれてるから大丈夫。冷え切ったお互いの手がだんだんと熱を帯びていく。(素直じゃないな、太一)なんだか今日はわたしが勝った気分。寒かったなら言えばいいのに。手を繋ぎたかったのなら言えばよかったのに。・・・いや、本当に繋ぎたかったのはわたしだったんだろうな。

相変わらずわたしの視線は太一に注がれることなくアスファルトに向かっている。塗装された紺色の固い地面。触ったら絶対冷たい、なんてくだらないことを考えていたらいつのまにかわたしの家の前にいた。太一は何も言わない。

「ねえ、太一、太一はかっこよかったよ。すごかった。あれは太一のせいじゃない。誰のせいでもないよ。太一は努力したでしょ?負けたからって自分を責めないでよ。わたしだって悲しいから。まだ機会はあるよ。太一にはもう一年あるんだよ。引退してった先輩たちだって太一たちを応援してるから。」私だって、応援してるから。

太一は何も言わない。ただ、押し殺した泣き声だけが聞こえる。繋いだ太一の手が、震えている。

どうして俺が好きなんだと聞かれたから、『どうしてだろうね』と答えたけれど、本当は言うのが恥ずかしかっただけなんだよ。どうして、ってちょっと困ったけど、とりあえず言えることはね、太一、全部全部好きなんだよ、あなたのことが。とくにどこが好きって聞かれたなら、困った顔をわざとしてこう答えるよ。


「努力を怠らないところ!」





(もうすぐ春だね、太一)(・・・ああ)(あったかくなるね)(うん)(それでも手、繋いでいようね)