それは一つの 嫉妬 だったのかもしれない。その時のわたしはまだ心なんてまだ未熟なもので、なにもかもを受け止めるにはまだ早すぎたのだ。だが今ならわかる。あれは 嫉妬 だったのだ。紛れもない醜い感情、誰もが一度は抱いたことがあるだろうそれ。あの時のわたしは、それを 嫉妬 と認めず何かほかのもやもやとした感情ととらえていたのだ。・・・きっとわたしはそれが 嫉妬 だと知っていた。認めたくないだけだった。わたしはいつもそうなのである。


中学二年生の頃、大好きだった友達に彼氏ができた。その『大好き』というのは、決して恋愛感情などではなく、友人を越えた親友のことである。小さいころから仲良しだったわたしと彼女は、何でも話せる仲だった。もちろん彼氏の話も聞いた。『ああ、この子は今とっても素敵な恋をしてるんだな』と、当時の私はそう思っていたに違いない。だがそれも 嫉妬 に繋がる。想っていた好きな人とようやくくっ付くことができた彼女を、わたしはいつのまにか『親友』として見ることができなくなっていた。大好きなのに、どこかでわたしは彼女を否定していたのだ。


そんな醜い感情を抱く自分が嫌いだった。その後わたしはあまり彼女と会話をしなくなり、今に至る。時々メールのやり取りはするが、何分高校が違うのだ。お互いに忙しくて合う暇すらない。・・・わたしとしては会いたくないのだが。最近来たメールによると、以前付き合っていた彼氏とは別れバイト先の人と恋に落ちたらしい。バイトもまだ始めておらず、好きな人すらいないわたしと彼女は、誰が見てもわかるほどに対象的だった。


わたしがこんな感情をずっと抱いていたと知ったら彼女はどんな反応をするのだろう?泣いてしまうのだろうか?きっとわたしを嫌いになるだろう。嫌いになってくれて構わない。正直その方が楽だ。携帯が机の上で揺れている。『明日会えない?』噂をすればなんとやら、だ。メールを返信する気分ではなかったのでそのまま携帯を閉じる。またあとで返すよと、心の中で呟いた。


バイトを決めて、好きな人を作って、甘酸っぱい青春をしたいだなんて、わたしには無理だったのかもしれない。現実とは、物語や漫画のようにはうまくいかないものである。再び携帯が揺れた。今度は誰だとため息をつきつつ携帯を開く。『外』それしか書いていないメールがやってきた。送り主は幼馴染の八神太一くん。慌てて部屋から飛び出して、社宅の階段を駆け降りる。階段に座り込んでいた迷惑な太一を発見。高校生になった太一は、前より身長が伸びた。


「なにしてんの」
、泣いてそうだなって思ったから来ただけ」
「・・・」
「当たり、さすが俺」

にしし、と変な効果音が付く笑みを太一は浮かべた。何も、何も変わっていない。そんな太一を見たらなんだか涙が出てきた。太一の隣に腰をおろして、顔を膝に埋める。ぽんぽん、と太一が背中を優しく叩いてくれた。わたしが泣いているとき、いつも太一はこうしてくれた。何も、変わっていない。

「あのね、」
「おう」
「わたし友達に 嫉妬 してたの、ずっと。長いこと、ずーっと。大切な友達なのにね」
「おう」
「わたし自分が嫌い」
「大丈夫、俺はお前のこと、好きだぜ」

太一が立ち上がって、それからわたしの腕を引っ張って立たせて、そしてわたしを抱きしめた。涙の量が増加する。「ずっと好きだった」太一が何かを思い返すように囁いた。なんでわたしは気がつかなかったのだろう。こんなにも、わたしを思ってくれている人が近くにいたのに。

「わたし、大事な友達に 嫉妬 するようなやつだよ」
「知ってる」
「わたし、嫌なやつだよ」
「お前は嫌なやつなんかじゃないよ」
「太一」
「なんだ」
「ありがと、」
「気にすんな」

太一がわたしを抱きしめる力を強くした。大丈夫、わたしは一人じゃない。もうあの子に 嫉妬 だってしない。ちゃんとあの子と連絡をとろう。まっすぐな瞳であの子を見よう。あの子は、わたしの、大切な友達だ。あの子に対して抱いていたことを全部話そう。受け入れてもらえなかったときは、仕方がないとしか言い様がない。大丈夫、太一がいる。

「お前、視力落ちただろ」
「え、うん」
「見えなかったら言えよ」
「え?」
「俺が代わりに見てやるから」

ぼやけた視界で、太一の笑顔がはっきりと見えた。










視力0.6











世界