さん」僕は少女の名前を呼んだ。彼女は、そっと振り返って僕を見つめた。
「ああ、高石」

女子の大半は、僕のことを「タケル」と慣れなれしく言うと言うのに、さんだけは、なぜか「高石」と苗字で呼ぶ。最初は戸惑ったけど、それは逆に僕にとって心地よくなってきていた。そんなことを言っているけれど、やっぱり僕の気持ちとしては名前を呼んで欲しい。前に、何で苗字なの、と聞いたことがあった。その時彼女は、「皆と一緒じゃつまんないじゃん」と表情を変えないで言った。僕はとにかく驚いた。女なんて殆ど同じような生き物だって思ってたし、こんな女の子ははじめてみたから。(ヒカリちゃんは別として、)

「ねえ、さんってさ、赤色っぽいよね」

僕がそう言えば、さんは困ったように笑った。彼女は苦笑が得意だった。・・・この言い方は、色々とおかしいと思うけど、僕は彼女の本当の笑顔なんてみたことがなかったから。いつも作り笑い。印象強いんだ。ああ、話が随分と脱線しちゃった。さんは、不思議な話が好きだ。あ、この言い方も変だけど、とにかくそうで。「地球ってなに」とか、普通の常識じゃあ意味わからないことを話すのが好き。だと、僕は思っている。だから今日こそ変な話をしたかった!(ああこれ意味わかんないや)

「赤色?・・・そーかなあ、あたしとしては、薄暗い青だと思うんだけど」
また君は笑う。いつものような、作り笑い。
「赤だよ、赤。だってさあ、さんって変わってるじゃない?他の人とは全然違うんだもの」クスクス、と僕も笑った。また君は困ったように笑う。
「青は・・・ええと、サファイアだとして。サファイアってたくさんあるけどさ、その中で輝くルビー、仲間なのに色が違う。これって、なんかさんみたいなんだもん」

さんはびっくりしたように目を見開いた。でも、いつもとは違う綺麗な笑顔を浮かべた。僕はその笑顔に見とれた。誰もいない教室。差し込む夕陽が、よりいっそうさんの笑顔を美しくさせる。夕陽・・・オレンジ色に染まってても、やっぱり君は赤色だ。綺麗なルビー。その色は人を引き付ける。

「じゃあ高石は緑だね」

また笑いながらさんは言う。悪戯っぽい笑顔。多分、特定の人間にしか見せないんだろう。僕は見たことがなかった。また見とれることになってしまうのは、言わずともわかるであろう。「なんで?」僕は聞いた。もしかして、僕の洋服のことだったりしないかな、なんてありえないないことを思ってみた。僕とさんが出会ったのは、中学に入ってからなのにな。

「とくに理由ないけど、エメラルドってきれいじゃない?」

高石みたいに。付け加えてから、さんは鞄をもった。「じゃーね」と言って、教室から飛び出していった。さんの顔が赤かったのは、夕陽の所為にしたくない。ありふれたサファイアの中で、珍しく輝くルビー。それは僕に「輝け」と叫ぶ。(そして君の輝きは増す)




(それは、緑に輝く仲間はずれ)(だからルビーと友達)




※補足!宝石になる前の鉱石、コランダムの中で赤色に光るものだけをルビーと呼び、それ以外の色をすべてサファイアと呼ぶそうです。=だから赤色のルビーは仲間外れ、という意味だと思ってください。ちなみにエメラルドについては関係ないか、と!(あやふや)ルビーとサファイアに関係がないからエメラルド、という感じで捉えてくださると幸いです・・・!

2007.12.21