「わあみて、さっくさく!」雪は好きだ。世界を一面の銀世界に変えてくれるから。雪が降った日は朝早くから起きた。だれにも踏まれていない白くてきれいな雪を、一番最初に踏みしめることが大好きだから。もう雪が降って一日経ってしまったけど、残っている雪をわたしは踏んではしゃぐ。靴の中に雪が入ってもお構いなし。わたしからすれば、妖精が靴に忍び込んだのと大して変わらないもの!わたしはまたはしゃぐ。それから、ゆっくりと後ろを振り向いた。




「ヤマトも来ればいいのに」「俺は寒いのは嫌いだ」そっぽを向くヤマト。金色の髪と雪の白い色が混ざり合って溶けてしまいそうだ。「人生の半分損してるね!」「ほっとけよ」じじくせーと呟くと、ほっぺに鋭い衝撃がやってきた。とっても冷たい、真っ白なものが頬についている。「バーカ」いつもみたいに笑うヤマト。「死ねよヤマトめ!」わたしも雪玉を作って投げる。作った雪玉は数えきれないけど、当たった雪玉は両手の指で足りるほどだった。






「つ、かれたー」息を吐いたら透明なはずなのに真っ白に染まった。雪を触りすぎて手が動かない。そっと指先を見つめたら、自分が思っていた以上に真っ赤だった。どうしよう、しもやけになるかも、なんて笑ってヤマトに言ったらヤマトも笑ってそうだな、と言った。きっと二人ともあほだったんだと思う。




「もう雪降らないかな」「東京だし、降る方が珍しいだろ」「そうだね」どうせならクリスマスにも降ってほしかった。ホワイトクリスマスだなんて憧れてしまう。きらっきらのイルミネーションと雪なんて眩しいぐらいにきれいだったろうに。「雪、降ってほしいなー」「何でだよ」寒そうにマフラーに顔をうずめるヤマト。さすが寒がり、鼻までマフラーで隠れている。




「またヤマトと雪で遊びたい」いろんな人が歩いた後の雪は真っ白ではなくなる。泥がついたり、ごみが捨てられたりと、きれいな白はどこかに消えて、そしていつのまにか氷になってゆっくりと溶けていく。さみしいものだよね。わたしは小さくつぶやいた。その言葉にヤマトは返事をしなかったけど、わたしは満足だった。




「今年中にまた降ればいいね」「そうだな」手をつないでゆっくりと歩く。ひんやりと冷えていた指が少しずつ熱を帯びていく。「来年でもいいや」「どっちなんだよ」「ヤマトが隣にいてくれるならそれでいいの」我ながら大胆なことを言っていたと思う。それでも恥ずかしくなかったし後悔もなかった。ちらりと横目でヤマトを見てみたら、林檎みたいに顔が真っ赤になっていた。思わず噴き出してしまうほど!




「笑うなよ」「ごめ、だってさ・・・!」それでも笑いは収まらない。とうとうヤマトまでもが笑いだしてしまった。道行く人が不思議そうにわたしたちを見ている。やっぱり恥ずかしいなんて想いはなかった。ヤマトが一緒にいてくれたから。





「来年も、一緒にいような」微笑みながらヤマトが言った。答えることなく頷く。「それじゃ、デート本番だ!」





くなんて、ない

(雪だって、また降るもの)